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価格.com賢者の買い物―カカクコムの起承発展 (久保田正志)
評価:
久保田 正志
日刊スポーツ出版社
¥ 1,575
(2007-11)
皆さんは『キャプテン』をご存知でしょうか?
野球マンガの名作として知られ、私の中でドカベンと双璧を成しています。

このマンガの特徴は、
その名の通りチームのキャプテンを主軸に描いていることです。
舞台は墨谷二中の野球部野球
先代からキャプテンを継承され、それぞれに奮闘しつつキャプテンは引退し、
後輩として育った下級生が今度はキャプテンになっていく‥
それを4代繰り返したあたりで終わります。
この代替わりが部活っぽくて妙にリアルなんです。

今回ご紹介するカカクコムの本とはかけ離れた話をしていますが、
本書を読んでいて、『キャプテン』を思い出さずにはいられませんでした。

カカクコムは創業10年で3代の社長を変遷しています。
一部上場までのスピードはもちろんのこと、
10年で3代という数字こそ、この会社の強さを決定づけています。

多くの中小企業では、創業者が強いカリスマ性でガバナンスを敷き、
成長と共に事業が増え経営が複雑化しても、
それでもなお現場にガバナンスを敷き続けるという傾向があります。

創業者の影響力が強すぎると、
ある程度の従業員数になった時に必ず部下をダメにします。
裁量権を渡さないと部下に自主性が育たなくなり、
イノベーションがかからないため、やがて会社は衰退します。

逆に3年に1度のペースで社長が交代しても、
普通は会社の体力が持ちません。
従業員が「誰」を見て仕事をすればいいかわからなくなります。
カカクコムが生き延び続けているということは、
前任者がきっぱりと道を譲っていることと、
社としてのアイデンティティーが確立していることがわかります。
────────────────────────────────────────
■本書の構成

※完全にネタバレになります。
まだ読んでいない方は味わいが薄くなってしまうのでここは飛ばして読んでください。

●第1章〜第4章【槇野社長時代】
・メルコでの新人営業
・パソコン価格比較サイトの立ち上げ
・PCボンバー渡邉専務との二人三脚
・バナー広告の出稿ラッシュ
・店舗側で更新できるシステムの導入
・米国の商品比較サイト『DealTime』の日本進出
・VCを率いる穐田氏との出会い
・コンテンツの拡充(掲示板運営・PC以外の商品比較)
・穐田氏のVCによる友好的な買収、槇野氏引退による社長交代

●第5章〜第7章【穐田社長時代】
・DELLとの契約
・課金制度の見直し
・掲示板用ID登録制度の導入
・マザーズ上場
・M&Aによるサイトコンテンツ拡充
・一部上場
・不正アクセス事件によるサイト閉鎖
・ユーザーからの激励、サイト復旧

●第8章〜第9章【田中社長時代】
・社長交代
・ショップ評価制度の導入
・新コンテンツの拡充

●付録
・社史
・アクセス数の推移
────────────────────────────────────────
■立ち読みのポイント

本書には3つの楽しみ方があります。
これに沿って立ち読みのポイントをご紹介します。

1)起業家の成功ストーリー
⇒21ページ【サイト制作に必要なスキル】
サイトを制作する時にどんなスキルが一番重要か?
私自身はビジネスの立ち上げと同じで、「アイデア力」だと思います。
閃きがある限りどこまででもサイトを差別化できる。
WEBをやりたいけど未経験だという方、
「特別な勉強をしてこなかったし‥」とあきらめていませんか?
率直な感想として、技術的なことはどうでにもなります。
アイデアに自信があればどんどんチャレンジしていくべきです。
というのも、リードがどう、ユーザビリティーがどう、タグがどうとか言いますが、
制作の過程はもっとアナログです。雑誌をつくる過程よりアナログです。
どんな機能を付けて、どんな面にするか、フリーハンドで事足ります。
コーディングからは別世界ですが、そこまではかなり一般的な感覚で対応できます。
要するにアイデア勝負。
創業者の槇野さんは、人を雇うまで1人でシステムを開発していました。
店頭やネットで調べてきた価格を、アクセスとエクセルでまとめていく。
そしてユーザーにとって必要な最安値情報に徹底的にこだわる。
大事なのはプログラムうんぬんではなくて、
今日まで生き残ることになる「価格を比較する」というアイデアです。

2)WEBサイトの発展施策を知る
⇒134ページ【課金制度の見直し】
WEBサイトのビジネスモデルは、EC・広告・課金でした。
『ウェブを進化させる人たち』の回でドリコムの内藤さんが言っていた通りです。
このうち、ECは商品そのものを扱うため、容易に価格を変更することはできません。
他の広告・課金については、サイトのサイズに合わせて変えることができます。
私たちはここで勝負をすることになります。
WEBサイトビジネスでは、PVやUUといった指標で縛りを受けるものの、
比較的自由に広告や課金を値づけをすることができます。
リアル店舗ほどには周辺環境や競合環境に左右されません。
それゆえに価格を読みきるのはなかなか難しいものです。
もともとのプライシングが「不透明」と思われている節があるため、
わずかな値上げでも顧客は敏感に反応します。
このあたりはリアルよりもネットの方が不利な部分かもしれません。
料金改定(たいていは値上げ)をどう顧客に理解してもらえばよいでしょうか?
楽天のようなEC事業者の多くは、サイトのサイズが拡大した時期に
料金改定(出展料の切り上げ等)を行っています。
本書でも穐田社長時代に課金制度の見直しを行っていますが、
やはり合理的に費用対効果を説明することで顧客の理解を得ています。

⇒193ページ【ショップ評価制度の導入】
導入したら顧客からの反発が予想される機能に、レコメンドシステムがあります。
このブログもそうですが、読者によるレビュー・評価機能です。
アマゾンドットコムが先駆者となって、
今や多くのポータル・ECサイトで消費者レビューを見ることができます。
「評価を書かれる」ということは、店としてはかなり覚悟がいることです。
サービスの捉え方は人により千差万別で、
必ずネガティブな意見が出てくることが予想されます。
しかし、ネット上はどうあれリアルの口コミを止めることは誰にもできません。
もはや「ネガティブ情報を把握していないことの方が怖い」時代なのだと気づいてもらえれば、
優良顧客のみを抱え込める点でも導入のメリットはとても大きいと言えます。

3)カカクコムの企業研究
第7章を見ると、不正アクセス事件により従業員の結束力が高まったことがわかります。
起業ドキュメント本ではその企業のバリューを深く知ることができます。
カカクコムでは徹底したユーザー視点を貫いています。
企業の根幹を揺るがす一大事が起きた時、従業員がどんな行動に出るかは、
日頃、経営が企業バリューをどれだけ伝えきっているかで変わってきます。
三菱自動車のようにクレームをロッカーまで隠しに行くのかどうか。
最近の食品偽装(消費期限・原材料)事件では、
賢明な従業員が経営陣すら忘れていた「本当のバリュー」を
自ら実践していることに驚かされます。
危機における対応力は、企業文化そのものが表れる決定的な評価基準となります。
────────────────────────────────────────
それでは5点満点での評価です。

タイトル(1)★
「起承発展」は悪くありません。ところが「賢者の買い物」はどうでしょう。
本書の内容はカカクコムユーザーの賢い買い物方法を知るためものではないので、
内容を表しているわけでもなければ、
わかりやすい解釈が類推できるわけでもありません。
とても不親切なタイトルです。
実際の内容はもっと企業ドキュメント寄りです。
「価格.comってカカクドットコムじゃないの?」あたりでどうでしょうか。
インパクトねらいの点もありますが、
「サイト名こそユーザーを意識して呼びやすい名前にしなければいけない」ことがわかり、
ユーザー満足に心を砕く同社の文化が伝わるのではないかと考えました。

ナレッジ(5)★★★★★
立ち読みのポイントで紹介した通りになるので、
ここでは割愛します。

スキーム(5)★★★★★
本のターゲットが明確になっていることが本書の強みです。
「立ち読みのポイント」で3つの観点を紹介しましたが、
本当にここに照準を絞ったのではないかと思えるくらいです。
一般的なサイトユーザーは、企業よりもサイトの商品や記事を見ます。
本の企画にあたってはこの層を切る必要があります。
逆にカカクコムの名前を出して飛びつくであろう読者とは、
やはり起業を目指している、しかもITで成功したい、人たちなのだと思います。
この人たちが必要としている情報は、
どんなタイプの性格/バックボーンを持っていれば起業家に向くのか、
サイトの運営・発展にはどんな施策が有効なのか、
カカクコムの成長を指標で見るとどのくらいか、ということです。
本書にはそれがすべて入っています。
緻密に歴史を追いかけていく構成も見事なのですが、
ターゲットを明確に洗い出した時点でほぼ「勝ち」です。

総合(4)★★★★
というわけで、とても読み応えのある本書です。
初め手に取った時、文字が小さく読むのにしんどそうだなと感じましたが、
いざ読み出すと登場人物の行動や発言に臨場感があり、
フォントサイズはまったく苦にならないです。
惜しむらくはタイトル。
なぜここだけユーザーに迎合したのか理解できません。
徹底的に本の想定読者目線で仕上げて欲しかったです。


JUGEMテーマ:ビジネス


| ネットビジネス(業界・起業家・ウェブマーケティング) | 23:48 | comments(2) | - |pookmark
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Comment
「価格.com賢者の買い物」の編集作業に携わった小野と申します。本を読んでいただきまして、ありがとうございます。
ご意見、とても参考になりました。
| 小野 | 2007/12/10 4:11 PM |
小野さま、コメントありがとうございます!
せっかくの御本にいろいろと失礼を言ってしまい、
すみません。
でもこうして本が出版されるおかげで、
私のような駆け出しの人間が希望を与えてもらえるので、
本当に本書を送り出してもらってありがとうございます。
日刊スポーツさんが刊行されているということで、
冒頭の「キャプテン」の話はちょっとつながりがある?
ことにいま気づきました。¥(^^;)
| ぜろよんご | 2007/12/11 9:04 AM |
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