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ホームレス中学生 (麒麟/田村裕)
評価:
麒麟・田村裕
ワニブックス
¥ 1,365
(2007-08-31)
世界で最も嫌悪する言葉。
―「生んでくれてありがとう」。

ドラマやドキュメンタリーにありがちな台詞ですが、
子どもの頃の私にはこの言葉を口にする人の気が知れませんでした。

確かに生きてないと経験できない素晴らしい出来事はあります。
思い返してみると自分にも人生が最高だと思えた瞬間はいくつもありました。

「お前自身がボーダーラインだ」
と塾の先生に言われて臨んだ高校受験。
公立なのにやたら倍率が高くてさんざん迷った末、
願書を提出する当日に志望校を上げてのチャレンジ。
当時はまだ合格発表を掲示板でしていました。
友達に「大丈夫だから行っておいで」と背中を押され、
自分の番号を発見した時のあの喜び。
あこがれの高校で生活できることに胸が躍りました。

初めて付き合った彼女のこと。
告白は渋谷のパルコ近くにあるちょっとしゃれたカフェでした。
実はお店の環境は事前に調べておいて、
客席が等間隔で周りの声が気にならないことで、「ここだ」と。
帰りに彼女とつないだ手のあたたかさは
とびきり嬉しくてこのまま秘密にしておきたいような、
誰かに自慢したいような何とも言えない不思議な感触でした。

そんな誰にでもある「特別な」経験を差し引いても、
やはり「生んでくれてありがとう」と言えません。
これらはすべて中3以降の話。
小学校時代に自分が過ごした(自分にとって)壮絶な環境を考えると、
「もしあそこでダメになっていたら生まれてきて良かったもクソもない」
と今でも思えます。

小学生の頃に住んだ団地は街の高台にあり、
自分の家があった棟はその中でも坂を登りきったところにありました。
自分の部屋と反対側にあるベランダからは広場の庭が覗いていて、
5階とはいえ大人でも見下ろすと足がすくむ高さでした。
毎日寝る前に「明日は死のう」と自分に言い聞かせて、
でも広場の庭に落ちるのは落ちていく瞬間が想像されてとてもできませんでした。
自分の部屋側の窓からなら直線距離で落下できるので楽な感じはしたのですが、
そう思いつつ今日も死ねない自分に嫌気を覚え過ごしました。

少し話が暗くなってしまいた。
『ホームレス中学生』をこの場で追記するつもりはないので、先を急ぎます。
────────────────────────────────────────
■本書の構成
4P〜74P:中学生にして公園生活
75P〜114P:母の最期、中学校での学園生活
115P〜175P:生きる意味を見出した高校での出会い、再び貧乏生活
176P〜最後:NSC時代、母への想い
全体的に、貧乏生活の描写は辛いのに笑えて、
家族、特に母親とのやり取りの描写は胸に染みます。
────────────────────────────────────────
■立ち読みのポイント
⇒188ページ【亡くなった母への想い】
この本を手に取ったのは11月上旬で、メディアでもちらほら取り上げられていたのですが、
それこそ自分の親の影響かお笑いに対しての関心が薄く(と言いつつそこそこ見てますが)、
読む気にはなれませんでした。
たまたま渋谷の紀伊国屋でTVの番組関連本を探していたところ、
オビに「笑おうと思って買ったら案外泣けた」と書いてあり、
どれ手に取ってみるかと読み出したのがきっかけでした。
※いま調べてみるとオビではないですね。POPだったのでしょうか‥
田村氏のネタでもある貧乏生活に正直あまり興味がなかったので、
NSC時代のあたりから読み始め、あっという間にラストまで行きました。
そこで母への想いを綴った文章を見た時に思わずぐっと来ました。
「遺影を選ぶ際に母親が中心にいる写真がなくて困った」というエピソード。
「自分を見て母親を褒めてくれる人が増えるよう生きていこう」という決意。
どんなにうまい文章力があっても、必ずしも人を泣かせられるわけではありません。
こういう「強い言葉」はねらって書けるものではないので、
本書が大ブレイクしたのは著者のみずみずしい感覚によるところが大きいと思います。
もともと人一倍「家族」に対する関心が強かったので、
そこだけ見てレジまで持っていきました。
────────────────────────────────────────
つい最近になって、「親も人間だ」ということを知りました。
何を今さら‥と思うかもしれませんが、
本当にこの歳になるまで気づくことがなかったのです。
たとえば、
上司とやり合わなければいけないとわかっている日、
それが必要なことだとはわかっていても会社に行くのに勇気が要ります。
食べ物だって、
我慢はしてもお腹は空くし、ファミレスに入ればデザートも注文したくなる。
正直、私の小学校時代はとんでもない環境に身を置いていましたが、
日付が変わるまで働いて帰ってくる父や、たくさんの家庭料理を食べさせてくれた母は、
当時の私から「いつ死んでもいい」と吐き捨てられどんなに傷ついたことでしょう。
「生まれてきてよかったのかどうか」、
「そんな自分が子どもを持つべきかどうか」の判断はいまだに解決されませんが、
「鉄仮面」であった親の存在が本当はもっと身近なものであることに気づかされました。
────────────────────────────────────────
それでは5点満点での評価です。

評価の前にひとつだけ。
本書は本来の意味でいわゆるビジネス本ではないので、
ナレッジの有無で評価していくことは妥当ではありません。
しかし、ただ話題になっているからという理由ではなく、
ぜひともこのブログの「教育」カテゴリーで取り上げたいと思いました。
文科省や学校の対応ばかりがニュースの焦点になっていますが、
本当はこの本に書かれているように、
地域が主体となって子どもの面倒を見るべきではないでしょうか。
先ほども書いたように、「親も人間」です。
「それじゃだめだろう!!」って戦後を切り拓いてきた私の親世代には怒られそうですが、
人生の目標や価値が見えにくくなっている今、親にもモラトリアムが必要ではないでしょうか。
ですから、その穴埋めは地域でする。
実際小回りが利く分、中央から教育を見直すより早いかもしれません。
地域の人がどんな対応を取ったら良いかは本書に出てくる通りです。
田村少年の時とは既に時代背景が違うので、こんなにうまくいかないかもしれませんが、
見習うべきことがたくさんあります。

評価の前にもうひとつだけ。
えっ、長い?YES!
最近教育と歴史の関係を勉強できるめちゃくちゃ面白いマンガを発見しました。
このブログでの書評はやりませんが、紹介だけさせてください。
「チェーザレ」(講談社モーニングKC・惣領冬実)です。
4巻出ましたー。待ってましたー。
同じくマンガ&歴史好きの友人が「チェー‥何?」と言っていたので、
知名度はそんなものなのかなあ[:がく〜:]
ひとことで言うと、「蒼天航路」(同じく講談社モーニングKC・王欣太)の中世版。
あ、「蒼天航路」は三国志を曹操の視点で描いた作品です。
ってまだ単行本出てるの!自分が学生の頃からやってるから相当長いはず‥
ととと、マンガブログになってしまうのでこの辺で。
とにかく、「チェーザレ」猛プッシュです。
漫画を読んでいて久しぶりにキタ!って感じです。
このパートだけ妙に明るくなっちゃいましたね。
それでは続きをどうぞ。

タイトル(5)★★★★★
「中学生」と名づけたところが絶妙です。
小学生だとタイトルだけ見た時にリアリティが無いし、
高校生だと最悪自活できてしまいそうです。
本人の経験そのものでもある中学生でドンピシャです。
前半の「ホームレス」が持つ言葉の響きは、当たり前ですがマイナスイメージ。
酷い事件に巻き込まれたりしているので、
どう逆立ちしてもいいイメージにはなりません。
ところがここに「中学生」を組み合わせる妙に愛嬌があって収まりがいい。
類書や本書のタイトルを真似たブログが一気に出そうですね。
それだけ破壊力のあるタイトルです。

ナレッジ(5)★★★★★
どんな人でも「家族」に対する関心は強いはず。
私のように人生の負の部分から家族に強い関心を持っている人も多いでしょう。
でも、どんな人にも親や子ども、友人や大事な人がいるように、
誰かから強く求められています。
私には年に1回しか会わない友人がいますが、
それでも会わなければ1年の在り方が変わってしまうほど大事な存在です。
ふだんメールや電話のやり取りがなくても、
皆さんのことを時々気にかけている人がいるはずです。
本当にその人たちのことを忘れないように、
いつもいい人間関係を築いていたいものですね。

スキーム(5)★★★★★
構成も見事としか言いようがないです。
「おわりに」で「制作を手伝ってくれた方」として名前が挙がっていますが、
著者の体験を最大限に引き出したのは彼女たちのマジックです。
もし私が同じ企画をするとしたら、
NSC時代やM-1といった現在に近い部分を取り上げていたことでしょう。
ところがそれではそこそこしか売れない。
お笑いに興味が無い人には手にとってもらえないからです。
そうではなくて、貧乏ネタを織り交ぜながら
母との記憶や学生生活といった「誰もが経験しそうなこと」をベースに引いたことが
読者の共感を呼ぶのだと思います。
あまりにも自分とかけ離れていることを展開されても読者は興味を持てませんし。

総合(5)★★★★★
流行りの本に「オール5」をつけるのは悔しい!
でもいいものはいい!
特に家族に強い思い入れがある人は絶対泣けます。
明日からも、自分にパワーをくれる人のために頑張ろうって思えます。
田村さん、素敵な本をありがとう!
でもお笑い芸人としてはこの先ちょっとやりづらいのかも、
なんて危惧したりします‥ゆき


JUGEMテーマ:ビジネス


| 教育(公教育・教育サービス) | 20:42 | comments(0) | - |pookmark
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