|
評価:
佐々木 俊尚
小学館
¥ 1,365
(2007-11)
|
あとがきを読んでいてびっくり!
本書は「sabra」(小学館から出てるグラビア誌)連載の原稿だったんですね。
若い時たまに買ってました‥
硬派な本書からはとても想像がつかないほど軟派な雑誌です。
なぜこの連載をサブラに載せようと思ったのかまったく理解できませんが、
いずれにしても今をときめく起業家たちのストーリーを
このタイミングで読めるのはありがたいことです。
本書にあるネット第二世代(楽天・ライブドア・サイバーエージェント)
の成功をまとめた本が一服し、
ニーズとしてはそろそろ‥といったところでした。
本書に登場してくるサービスの中で、本当に誰もが知っているサービスは、
はてなとmixiくらいなのではないでしょうか。
ネットに触れている人からすると、「それはないだろ」と思うかもしれませんが、
第二世代の巨大化・総合化に対して第三世代の特徴は、専門化・細分化なので、
自ずと知名度は限られてくることが推測されます。
ECにせよポータルにせよコミュニティにせよ、実績がなければカネが回りません。
第三世代の課題としては、「いかに知名度をあげるか」に尽きます。
今後、広報やプロモーションの役割はますます重要になりそうです。
以前、三井不動産の商業施設戦略の講演を書きましたが、
講師の安達覚さんがおっしゃっていたことには、
「商業施設は建てるだけではだめ、人を呼び込む装置が必要」ということでした。
ネットでもまったく同じことが言えます。
コンテンツの中身だけではだめ、SEOだけでもだめ、特別な営業力だけでもだめ。
サイトの認知度を向上させる優れた仕掛けが必要です。
本書に登場するサイトは、
ユーザーに喜ばれる仕掛けを考え抜いてサービス化したコンテンツを持っています。
逆にユーザーの使い勝手を無視したサイトは、
早晩ネットの洪水の中に消えていくようになりました。
────────────────────────────────────────
■本書の構成
・プロローグ
・エニグモ
・mixi
・アブラハム・グループ・ホールディングス
・ゼロスタートコミュニケーションズ
・チームラボ
・ルーク19
・paperboy&co.
・フォートラベル
・はてな
・あとがき
ひとつひとつの話の構成は概ね以下のようになっています。
1)起業に至る転換点
2)起業家本人の生い立ち(学生時代/会社員時代)
3)主力ビジネスのアイデアを形にするまでの試行錯誤
────────────────────────────────────────
■立ち読みのポイント
フォートラベルをご存知でしょうか。
私はこれほどすごいサイトを見たことがありません。
サイトを始めて見た時のインパクトは衝撃的でした。
その名の通り同サイトは、旅行SNSサイトです。
今やSNSはごまんとあります。
その中にはインフラを提供しているだけで終わってしまっているものが数多くあります。
情報が整理されていないためユーザーの無法地帯と化してしまう‥
決して規模だけでは評価できません。
このサイトの成功要因として、
徹底してユーザーが参加したくなる仕掛けを用意したことが挙げられます。
SNSの課題は、参加した途端に「多くの中の1人」になってしまうことにあります。
私もこれが怖くて参加できません。
しかしフォートラベルでは、
メインコンテンツである旅行記自体が個人のアイデンティティーを保障しています。
さらに、参加者同士の「つながり」を促進するために、
渡航マップや項目別サイト内ランキング、Q&A掲示板といったシステムを用意し、
旅行に行くだけではなく、その前後の楽しみまで提供することに成功しています。
サイトのためにつくられたサイトではなく、
ユーザーのためにつくられたサイトなのだとわかります。
広告収入も、大手航空会社、旅行会社からの出稿を得ており万全です。
このあたりはサイトのテーマからすれば極めて順当な流れですが、
面白いのは広告枠の呼び方。
カタログスタンドと称することによって、
旅行業界特有の味付けを盛り込んでいます。
そんなわけで私が入れ込んでいるフォートラベルの回のレビューを書きます。
⇒154ページ【ビジネスモデル×コンテンツ】
発想の原点は、旅行代理店が旅行の中の「旅行」のプロセスしか満たしていなかったこと。
楽天初期のメンバーとして、楽天トラベルの立ち上げに関わった津田さんが、
需要喚起や旅行準備、情報共有までを手がけたら立派なサイトになる、
と考えたことがきっかけでした。
このモデルが生きているからこそ、首尾一貫したサイトができたのだと思います。
もうひとつ津田さんの生き方に教わることは、
私たちの職業人生が1回で終わるものではないということ。
フォートラベルは、津田さんがたまたま楽天トラベルに関わらなかったら、
出てこなかった発想だと思います。
少なくとも今のタイミングでこの規模になっていたことは考えにくい。
生涯同じ会社に就社するのも人生ですが、
転職や起業も私たちが持つ立派なオプションだと気づかされます。
⇒157ページ【最初のオフィス=マック】
渋谷駅前のマックで事務所家賃を節約したエピソードは痛快です。
私は企画に移った今も(なぜか)現役の営業なので、
外出先からテレアポを行うことがけっこうあります。
こうなると困るのが電話をかける場所。
外では相手の情報を聞き取るメモを取るのに適しません。
デパートの休憩スペースでは有線や店内アナウンスがけっこう入ってしまいます。
ファミレスは店員の視線との戦いがあったり、
待っている客がいるとマナー違反になってしまいます。
いろいろと試した結果、オープンスタイルのカフェレストランが最適だとわかりました。
空間が広いため通話内容を遠慮しなくて済みますし、
席から離れてもぎりぎり席が見える位置で電話をかけることができます。
誰かテレアポカフェをつくってください!!
話を元に戻すと、津田さんらが最初のオフィスにマックを選んだのは、
ヤフーBBの無線LAN環境があるからということでした。
創業期は案外事務所を構えるよりも、
人数に応じて外で企画する方が濃密的かもしれません。
⇒161ページ【ナナロク世代の特徴=オンリーワン】
あとがきにあるように、
著者は1967年生まれの世代が中心となるネット第三世代の特徴は、
肥大化して総合企業化していく第二世代に対して、
サービスの運用をユーザーと共に改善し続けて成長する点にあるとしています。
────────────────────────────────────────
それでは5点満点での評価です。
タイトル(3)★★★
ご存知の通り、私があまり好きではないタイトルの付け方です。
あまりにもストレートすぎる。
でも、★3にしました。
理由は、私自身がこのタイトルを見て本を手に取ったからです。
「起業家の話には興味がある。2.0ということはウェブ系の起業家の話かな」
という推測が働くので、ベタゆえにわかりやすいことが利点です。
書店はWEB2.0の本でごったがえしています。
「2.0」はいまさら感のあるフレーズですが、
前半に「起業家」と付けたことで、従来のIT起業家本とは一線を画していることがわかります。
ネットビジネスを追っている人をすぐに引きつけることでしょう。
ナレッジ(3)★★★
この本をきっかけに本書に出てくるサービスを知る人が多いことと思います。
どんなところにビジネスチャンスがあるのかは本文でも出てきますが、
サイトコンテンツやビジネスモデルまでは自分なりに調べてみないとわかりません。
「人」をきっかけに企業を深く知ることができる点で、
本書はナレッジを研究するためのものではなく、
実際のサービスを認知するためのものと考えた方が良さそうです。
スキーム(4)★★★★
とにかく字が小さいです。
タイトルで少し気になって手にとって、2秒で「これ無いわ」と思いたくなります。
数えてみたら1行55字ありました。これが1ページ20行も続くのです。小説かと。
とても読む気はしなかったのですが、
本に出ているいくつかの企業は気になっていたので、悩んだ末に買いました。
じっくり読んでみると、思いのほか読みやすいです。
ここに著者の類まれな運筆力が発揮されています。
「本書の構成」で記したように、
飽きないように工夫された構成、
起業家本人と周りの人に焦点を当てたドキュメント、
補足としての社会背景の記述が適度に折り込まれ、
読んでいてストレスをまったく感じさせません。
1話15ページ完結になっており、もっと読みたいと思った頃に終わります。
だから長さとしてちょうどいい。
このページ数は黄金率なのではないでしょうか。
狙ってフォントサイズを下げた!?
もともとが雑誌の連載なので、きちっと字数内で話が完結しているところが気持ちいいです。
そう、私のブログと真逆‥
総合(3)★★★
買って損はないです。完全に読み物として成立している。
マーケティング、企画、技術者、営業、どの立場からも見ても読めます。
この著者の運筆力なら、続編期待です!
それにしても水着に釘付けなsabra読者はこの連載を読まないと思うんだけどなあ‥
本当に男性誌のつくりはナゾです。